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分かれ道に迷ったら、面白そうな方に飛び込んでみる。「移住する」「独立する」を同時に選んだ、陶芸家ご夫婦の山村暮らし。

分かれ道に迷ったら、面白そうな方に飛び込んでみる。「移住する」「独立する」を同時に選んだ、陶芸家ご夫婦の山村暮らし。

2018年11月19日

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川上村では、色んな人が参加しながらホームページを使って情報発信する「むらメディアをつくる旅」を開催しています。今回は「いにま陶房」の鈴木雄一郎さん・智子さんをインタビューし、インタビューに参加した3名(冨羽一成さん、山口桃佳さん、山本英貴さん)が記事を作りました。
このページでは山本さんの記事を代表例として掲載していますが、外部ブログに他2名分の記事も載せています。そちらもぜひご覧ください!
 
▼冨羽一成さん
 
▼山口桃佳さん
 
▼山本英貴さん
分かれ道に迷ったら、面白そうな方に飛び込んでみる。「移住する」「独立する」を同時に選んだ、陶芸家ご夫婦の山村暮らし。
 
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みなさんは、何かを「する」「しない」で迷ったことはありませんか?
 
今日の晩御飯は「外食する、しない」といった日常的なことから、いつかは「移住する、しない」といった人生に関わることまで。これまでも、これからも、分かれ道の手前で悩んでしまったり、なかなか次の一歩を踏み出せなかったりするときがあると思います。
 
でも、ほんの少しでも、面白そうだなと心惹かれているのなら。
たまには勢いに身を任せて、えいやっと動いてみるのもいいかもしれません。
 
今回、お話をお聞きしたのは、陶芸家ご夫婦の鈴木雄一郎さんと智子さん。今からちょうど20年前。雄一郎さんが29歳、智子さんが25歳のとき、奈良県の川上村に移り住みました。「移住をする」「独立をする」という、大きな道を同時に選んだお二人。確かに重い決断だったけれど、心に惹かれた方向に思い切って動いたからこそ、今の暮らしがあります。
 
● 人が感じる部分にこだわる
 
お話をお聞きした場所は、アトリエ兼住居のある『匠の聚(むら)』。川上村が文化復興を目的に芸術家を募集&定住させたアートの里。現在、鈴木ご夫婦のほかに、木工や日本画などのアーティスト7組が住んでいて、作品展示や販売、体験工房といった施設もあります。
 
木造2階建のコテージ風のアトリエ。ウッドデッキからは、川上村の美しい山々を見渡せる最高のロケーション。何かを創るにはぴったりの環境です。鳥のさえずりや心地よいそよ風を感じながら、まずは、鈴木ご夫妻が陶芸家としてどのような活動をされているのかをお聞きします。
 
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スプーンで掬いやすかったり、手に持つ感触にぬくもりを感じたり。鈴木ご夫妻が営む『いにま陶房』から生まれる器やお皿は、どれもやさしさが溢れています。一つひとつの陶器に込められているのは、さりげないところに施された気づかいです。
 
 
「暮らしにあるといいなと思える陶器。長く使ってもらえるように、持ちやすさ、手触り、口当たりといった機能面や料理との相性も大切に考えています、それを使い手の方に感じてもらえれば」と雄一郎さん。
 
 
 
例えば、<やさしい器シリーズ>の「リムボウル」。雑炊やスープを注ぐのにぴったりの大きさです。見た目の可愛さもさることながら、注目してほしいのは口縁の部分。あえて内側に入れ込んでいるため、スプーンで掬いやすい構造になっています。スープのお汁はもちろん、お米の一粒だって最後まですくえるデザインです。
 
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同じく、智子さんも使い手の気持ちを想像しながら陶器を手がけています。
 
「手に持ったときの感触や質感を大切にしています。触っていると、ほっと心が落ち着くような。ぬくもりが伝わりやすいように素材にこだわっています。根本にあるのは自分が欲しいと思うものをつくること。料理や育児など日々の実感のなかで、使う人にとって使いやすいものをつくりたいと思っています」
 
智子さんが手がける「カフェオレボウル」。手に取ってみると、ざらりとした土の感触が馴染みます。時々、手のひらを滑らせながら、素材感を確かめたくなる。温かいコーヒーやスープを注げば、じんわりとぬくもりが伝わってくると思います。
 
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好きな場所で、好きな仕事に取り組む。ライフスタイル雑誌に掲載されるような、理想的な暮らしを送る鈴木ご夫妻。でも、現在に至るまでには、思うようにいかない辛い日々がありました。お二人の過去を遡っていきます。
 
川上村との出会い、アートからデザインへ
 
芸術系の大学を卒業後、滋賀県の信楽で陶芸を学んでいた雄一郎さんと智子さん。お二人が出会ったのも信楽の職場。ご結婚されたのは、川上村に移住する1年前です。
 
そもそも、どのような経緯で川上村の移住を決めたのでしょうか。
 
「信楽で働いていたときに、5年後くらいには独立したいねって話していたんです。そんなとき、偶然にも奥さんのご家族が『匠の聚』の入居者募集の記事を新聞で見つけてくれて。応募してみたら受かったので、じゃあ、行ってみようと。少し不安もありましたが、奥さんの後押しもあって移住を決めました」
 
陶芸は作業スペースを確保するのが難しい。作品をつくる場所だけではなく、火を焚く場所なども必要になる。都会でスペースに余裕のある場所は限られてくるし、実際、複数人で共有したり、狭いからと玄関先で作業したりする人もいるそうです。陶芸家として独立を考えていたお二人にとって、『匠の聚』は理想的な環境でした。
 
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環境に恵まれ、創作活動に申し分ない。でも、新天地での生活と作家としての独立を同時に始めるのは簡単ではありません。暮らしが落ち着くまでは不安が続き、地域の人たちと関わる余裕もなく、ひたすらアトリエにこもる日々。僅かな貯金を切り崩しながらの生活。「何者かにならないといけないというプレッシャーを抱えながら、とにかく必死だった」と、当時の辛さを滲ませます。
 
転機が訪れたのは、移住してから4年後。
鈴木ご夫妻の間に長女が生まれたことが、その後の創作活動を変えていきます。
 
「子どもと森を散歩していたときに、ドングリの帽子が落ちていたんです。じっと眺めていたら、それがカップの形に見えてきて。持ち帰って、イメージを表現して作ってみたのがカフェオレボウルです」と智子さん。
 
今では器やお皿、マグカップなど、暮らしに馴染む食器類をつくっているお二人ですが、もともとはアーティスティックな作品を中心に手がけていました。雄一郎さんは頭の中のイメージを抽象的に表現するものを、智子さんは洋ナシのオブジェなど美しさを表現するものを。今とは違う作風です。
 
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「奥さんが病気を抱えたことも大きなきっかけです。ありがたいことに今では陶芸をできるくらいになりましたが、当時は道具を上手く使えない時期もあった。それからですね、使い手のことを意識するようになったのは」と雄一郎さん。ここから生まれたのが、「リムボウル」をはじめとした<やさしい器シリーズ>です。
 
表現するための「アート」から人のための「デザイン」へと変わった、鈴木ご夫妻の陶芸作品。その後、全国各地の陶器市に出品や、ショップやギャラリーにて企画展、ホームページをつくったりと精力的に活動。実際に手に取ってくれた方々の声を反映させながら、制作に反映し続けています。
 
また、創作作家の登竜門としても有名な長野県松本市で開催される『クラフトフェアまつもと』にも出展。徐々に販路を広げながら、陶芸家としての仕事が軌道に乗っていきます。
 
面白そうと思ったら動く、辛いときは心の電気を灯す
 
現在、雄一郎さんは49歳、智子さんは45歳。
お子さんはお姉さんが高校生、妹さんは小学3年生になりました。
これまでの20年を振り返り、今、鈴木ご夫妻は何を思うのでしょうか。
 
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「生きている限り、モヤモヤと悩む時期はあると思います。でも、それは何かと出会うための準備期間だと考えればいい。ただ、目の前にタイミングが現れたときに『今は忙しいから』とか『また別の機会に』とブレーキをかけてしまうのはもったいないと思う。出会いとか、きっかけって、どこにあるか分からないですよ。だから、面白そうだなと思ったら、とりあえず動いてみる。そして、最後まで形にしてみる」
 
 
「移住にしても、仕事にしても、何かをするには時間がかかると思います。時間をかけるからこそ、見えてくるものがある。不満はいつだって、どこにだって出てきます。だから、まずは自分が今いる場所が一番だと思うこと。ないものはない。あるものをみて考える。そこから始まることもあると思います」
 
 
雄一郎さんのお話に、深く頷く智子さん。
 
 
「信楽で結婚してから1年間くらいは、家事が中心の毎日でした。陶芸は趣味程度に続ける程度で。もしかしたら、そのまま主婦になっていたかもしれない。でも、あのとき、思い切って川上村に移り住んだからこそ、今があるんだなと思います」
 
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「これまでは落ち込んだら落ちていくだけだったけれど、今はそれに振り回されないようにしています。意識しているのが、心の電気を灯すこと。朝起きたら、理由もなく暗くなることもあるんです。でも、『今日もいいことがありそう!』って言葉に出してみて、スイッチを入れ替える。落ち込んだらただ落ちていくだけだったけれど、いまはそれに振り回されないようにしています。辛いことも、大変なことも、次にいいことがあるまでの途中経過。だから、『全部いい!』って楽しむようにしています」
 
 
私たちは、いつだって、何かを「する」「しない」を選ぶ分かれ道に立たされます。どちらかの選択が正しい、間違いという話ではありません。でも、心が惹かれているけれど、あと一歩が踏み出せないでいるのなら。勢いに任せて、飛び込んでみるのも楽しいと思います。想像もしていなかったような出来事や今後の人生を変えるような、運命的な出会いが待っているかもしれないから。
 
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川上村での20年を経て、仕事にも、暮らしにもゆとりが出てきた鈴木ご夫妻。東京や長野など各地に出展をしつつ、最近ではオンラインストアもオープン。また、匠の聚の作家と共に村内をまわり、ものづくりや交流を楽しむ出張教室を行ったり、陶芸教室を開いたり。陶芸家としての活動を広げながら、陶芸が引き寄せる、人や地域とのつながりを楽しんでいます。
 
 
もし、胸の奥で何かを感じたのなら、いにま陶房の作品が生まれる場所を訪ねてみください。雄一郎さんと智子さんのやさしさに溢れた陶器に惹かれたように、目の前に広がる景色にも心を動かされると思います。
 
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いにま陶房
陶芸家/鈴木雄一郎・鈴木智子
 
住所:〒639-3541 奈良県吉野郡川上村東川135番地
電話:0746-53-2660
オンラインストア:https://inima.thebase.in/
オフィシャルサイト:http://www5.kcn.ne.jp/~inima/

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水源地課
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