未来を、うるおす。奈良川上村

No.09

Ryori-ryokan "Asahikan"

源流の村で暮らしの原点を再発見。
「古き良き」を受け継ぐ、
大正づくりの老舗宿。

明治14年創業、村内で随一の歴史を誇る料理旅館「朝日館」。
大迫ダムの完成とともに、現在の土地に移ってきました。
大正時代に設えた窓ガラスや釜戸を守り続け、
今は「昔のまま」に魅せられて
海外からやってくるお客さまも増えているそうです。
川上村に訪れる旅人をあたたかくおもてなしする
女将の辻 芙美子さんにお話をうかがいました。

大正時代の貴重な建築が醸し出す、
日本の美と、和のおもてなし。

苔と木々が見事に茂る日本庭園を客室が囲み、釜戸や欄間、掛け軸といった、今は見かけることの少ない日本の伝統を守っている朝日館。「窓ガラスを斜めから眺めてみてください。綺麗に波打っているでしょ?これってもう作られていない貴重な大正ガラスなんですよ」。昔、宿周辺は熊野街道の入り口として栄え、大台ケ原、大峰山の登山客や参拝客の宿場でした。「最近は、インドやフランスなど海外のお客様も増えました。みなさん“本物の日本の宿に泊まりたい”とご希望されて。きっと朝日館の“ノスタルジックな雰囲気”が人を呼ぶのでしょう。ここで過ごす時間を楽しんでいただけるよう細やかな掃除やおもてなしを心がけ、古いものは昔のまま残すようにしています。最新の設備もベッドもないけれど、ノスタルジーを感じていただけるのはうれしいですね」。

川上村「旬の食材フルコース」に、
釜戸で炊く期間限定の柚子羊羹。
日本庭園を眺めながら美味をいただく、
贅沢なひととき。

朝日館が永く愛されるもう一つの理由は、お料理です。春の山菜、夏の川魚、秋の野菜、冬のジビエ…、その時その時にしかとれない旬の美味をたっぷり味わえるフルコースや鍋料理の数々が、川上村の魅力を凝縮しています。中には「鮎」や「いのしし」など、お目当ての食材が旬を迎える時期に連絡してほしい、という常連客もいらっしゃるとか。そんなお料理に加えて、宿泊客へのお茶菓子として出される女将さん手作りの紅い「柚子羊羹」も評判です。第34回全国豊かな海づくり大会の放流・歓迎行事が開催され、川上村へ天皇皇后両陛下がお見えになった際、お土産にお買い上げになられた逸品です。「柚子はうちの庭や川上村の畑で採れたもの。あんの豆の皮むきから釜戸炊きまで、ぜ〜んぶ手作りなの。焦がさないように長時間釜戸前に立って、じっくり炊き上げています。先先代の女将さんがしてきたことを受け継いでね。これもひとつの伝統かな。うちの柚子羊羹、柚子なのに紅いでしょ。食紅で染めているのだけど、紅色は昔からのお祝いの象徴。先先代のそういった心配りも、こだわって受け継いでいます」。柚子羊羹は10月から翌年5月連休までの期間限定。ぜひ、立ち寄った際は味わってみてください。

「水のはじまりの場所」だからこそ、
川上村が今の子どもたちに
伝えられることがあります

女将さんはお客さま向けに釜戸の見学(要相談)なども行っています。「最近は釜戸どころか、お料理の火を見たことがない子もいるんですよ。火吹竹で吹く体験もすごく新鮮でしょうね」。釜戸の管理はとっても大変なので「ガスに変えたら」という声もあったそうですが、「いろんなものがあふれている便利な世の中だけど、お料理に使う火はどこから生まれるのか、といった暮らしの原点のようなものを子どもたちに伝えたくて。自然に囲まれ、源流の森を持つ川上村のような場所だからこそできることだと思っているんです。だから余計に釜戸にこだわっているんですよ」。伝統を守り続ける女将さんのこだわりは、まさに川上村の財産だと感じました。

 
 
  • ラインシェア
  • ツイッターシェア
  • フェイスブックシェア